2020.01.05
最終更新日: 2024年12月22日
どれを使うのがベスト?抗インフルエンザ薬について
インフルエンザは感染すると高熱が何日も続いたり、頭痛や倦怠感が強く、とにかくしんどい感染症です。
ただ、 抗インフルエンザ薬 を使用することで症状の重さが軽減し、回復が早くなることが期待できます。
現在、抗インフルエンザ薬にはいくつかの種類があり、お子さんの 年齢や症状、生活状況 に合わせて適切なものを選ぶことが大切です。
一方で、症状が軽い場合や「薬に頼りたくない」という方には、 あえて使わない という選択肢もあります。
当クリニックでは、お子さん一人ひとりの状態やご家庭の考えを大切にしながら、 ベストな選択肢 を提案いたします!
目次
抗インフルエンザ薬の種類
抗インフルエンザ薬 には、大きく分けて3つの種類があります。
抗インフルエンザ薬の効果
抗インフルエンザ薬 の効果として科学的に証明されているのは、
「解熱するまでの期間が 約1~2日早まる 」ということです。
それに、多くの方が「1日でも早く楽になりたい」と思うものですよね。
私自身もインフルエンザにかかれば タミフル を飲みます。
一方、抗インフルエンザ薬は海外ではほとんど使用されません。
(そもそも病院へのアクセスが悪いので、発熱早期に病院を受診できない)
それに1~2日解熱が早まるくらいなら寝てたらいいやん、という考えの先生も多いです。
使用しない方針の病院や先生もおられ、治療スタイルはさまざまです。
当院の方針 は以下のとおりです:
- 可能な限り早く改善させたい
- 合併症や重症化を防ぎたい
という観点から、当院では 原則、診断がつけば抗インフルエンザ薬を処方 させていただいております。
抗インフルエンザ薬使用時の注意点
抗インフルエンザ薬も他の薬と同じように、 アレルギー反応 などの副作用が起きることがあります。
さらに、 抗インフルエンザ薬に特徴的な注意点 として 異常行動 が挙げられます。
異常行動について
「タミフルで異常行動を引き起こすのではないか?」という疑念が長年議論されてきました。
例えば、平成19年2月には、タミフルを服用した中学生が自宅療養中に転落死した事例が報道され、大きな議論となりました。
その後、厚生労働省は「10代患者へのタミフル使用を差し控える」勧告を出し、研究班が調査を行いました。
そして、10年以上の研究の総括として、厚生労働省は以下のような見解を示しています。
- タミフル服用のみに異常行動と明確な因果関係があるとは言えない。
- 抗インフルエンザウイルス薬の服用の有無、種類にかかわらず、インフルエンザ罹患時には異常行動が発現
- タミフル及び他の抗インフルエンザウイルス薬ともに、発現頻度は10 代と 10 歳未満とで明確な差はない
この結果を踏まえ、以下のように考えると良いです。
理解のポイント
- 抗インフルエンザ薬 は「使って問題ない」と考えられていますが、
- 薬の有無に関わらず 異常行動のリスクは存在します。
そのため、 慎重にお子さんの様子を観察すること が重要です。
それでは次に抗インフルエンザ薬の特徴をひとつひとつ見ていきましょう。
それぞれの抗インフルエンザ薬の特徴
タミフル
タミフルの特徴
元祖 の抗インフルエンザ薬であり、長年の使用実績があります。
そのため、 効果や安全性 について多くのデータが蓄積されている点が大きな強みです。
飲み薬 で、以下の2つのタイプがあります:
- カプセル(主に大人向け)
- 小児用ドライシロップ(粉薬なので小さなお子さんも飲みやすい!)
服用方法
- 1日 2回
- 5日間 続けて服用します。
タミフルの副作用について
一般的な副作用 としては、以下が挙げられます:
- 吐き気、嘔吐
- 下痢、腹痛
- 頭痛
これらの副作用は服用後に見られることがありますが、多くの場合 軽度 であり、
治療を中止せずとも自然に軽快することが多いとされています。
またインフルエンザでも嘔気が出ますので、副作用との判別は困難です。
お困りの場合は受診の上ご相談ください。
リレンザ
リレンザの特徴
リレンザは 2001年 にタミフルに続いて発売された 吸入型の抗インフルエンザ薬 です。
服用方法
- 1日 2回
- 5日間 続けて吸入します。
使用できる年齢
吸入がしっかりできることが条件です。
- 10歳以上 のお子さんに特におすすめしています。
- 6~7歳でも吸入が上手にできるお子さんには使用可能です。
リレンザのメリット
- 局所投与(吸入による直接作用)なので、 全身的な副作用が出にくい とされています。
- 異常行動の懸念も 少ない と考えられます。
吸入が問題なくできるお子さんには リレンザ をおすすめしています!
リレンザ使用時の注意点
喘息をお持ちのお子さん
- リレンザの吸入が 気管への刺激 となり、喘息発作を誘発することがあります。
- インフルエンザそのものが喘息を悪化させることがあるため、状況によっては注意が必要です。
牛乳アレルギー
- リレンザの粉末には わずかに牛乳成分 が含まれています。
- 重度の牛乳アレルギーがあるお子さんには 使用を避けた方が良い でしょう。
肺炎や重度の呼吸器疾患がある場合
- 吸入が十分に行えず、薬剤がきちんと投与されない可能性があります。
- その場合も 使用を避ける ことが望ましいです。
イナビル
イナビルの特徴
イナビルは 長時間作用型の吸入薬 で、 1回の吸入 だけで治療が完了するという 非常に便利な薬 です。
この薬は、この 利便性 から、日本では 非常に人気の高い抗インフルエンザ薬 となっています。
また、第一三共株式会社が開発した日本製の薬剤です。
イナビルのメリットや注意点
同様の吸入薬であるリレンザとメリットや注意点はほぼ変わりません。
- 局所投与 のため、全身的な副作用は少ないと考えられています。
- 吸入ができない年齢や状況では使用できません。
- 喘息持ちのお子さん や 重度の牛乳アレルギー には注意が必要です。
イナビルの臨床効果のエビデンス
日本で行われた臨床試験では タミフルと同等 の効果が確認されています。
しかし、海外の臨床試験では 効果が不十分 と報告された例があり、イナビルを採用していない国もあります。
第一三共からすると、海外で臨床試験を行うのは大変ですし、仮にそこまでやっても
世界中で抗インフルエンザ薬を使用している大半が日本である、という状況を考えると、
企業に一生懸命海外のデータを作るメリットがなかったという裏話もあるようです。
本気で臨床試験やったら良い結果が出るかもしれませんね(日本企業びいき?)
ラピアクタ
ラピアクタの特徴
ラピアクタは 点滴型の抗インフルエンザ薬 です。
抗インフルエンザ薬の効果を比較した研究では、 内服薬や吸入薬と比べて特に差はない ことが分かっています。
- 点滴は薬の 血中濃度 が速やかに上昇しますが、
臨床的な効果の違い があるほどの差にはなりません。
そのため、
「タミフルを飲んでいるけど熱が下がらないので、ラピアクタに変更する」
という使い方はしません。
ラピアクタが必要な状況
ラピアクタは、 どうしても内服や吸入ができない場合 に重要な選択肢となります。
具体的には以下のような 重篤な状況 です:
- ぐったりしている、嘔吐が続いていて飲めない
- 肺炎 で吸入ができない
- 痙攣 していて意識がない
このような場合は、ラピアクタの投与が必要になることがありますが、
同時に 入院や検査 が必要な状態と考えられます。
こうした患者さんの場合、 入院対応が可能な病院へ紹介 させていただくことがほとんどです。
このため当院で使用するということはほとんどありません。
ゾフルーザ
ゾフルーザの特徴
従来の薬(タミフル、リレンザ、イナビル)は ノイラミニダーゼ阻害薬 と呼ばれ、ウイルスの増殖に必要な酵素を阻害して効果を発揮します。
一方、ゾフルーザは エンドヌクレアーゼ阻害薬 として、 ウイルスの遺伝子複製を抑える という新しい作用機序を持っています。
- 体重10kg以上 から使用可能
- 飲み薬なので 確実に投与しやすい
ゾフルーザのメリットと課題
メリット
- インフルエンザウイルスを 素早く消失 させる効果が期待されます。
- 周りへの 感染拡大を抑える 可能性が示唆されています。
課題
- 発売直後に広く使用されすぎた結果、 耐性ウイルス の出現が問題となりました。
- 小児患者の 23%、成人の 10% で耐性ウイルスが検出されています。
- 耐性ウイルスは ゾフルーザが効きにくい だけで、毒性が強くなるわけではありませんが、
「いざという時の選択肢が減る」 ことは大きな懸念です。
ゾフルーザに関する日本小児科学会の提言
発売後の耐性ウイルス問題を受け、 日本小児科学会 は次の提言を発表しました。
- 12歳未満の小児 には 積極的に投与しない。
- 耐性ウイルスの出現や伝播に 注意深く対応 すること。
その後、 2024年 には効果や安全性に関する新しいデータが蓄積され、
小児科学会の方針も少し緩和されてきています。
ゾフルーザに関する当院の方針
当院では、ゾフルーザを 「第2選択薬」 と位置づけ、以下の基準を目安に使用を考慮しています。
新生児~5歳:使用しない
6~11歳:B型インフルエンザに対しては使用を考慮
12歳以上:吸入できないお子さんで使用を考慮
というのを目安に状況によっては使用を考慮します。
抗インフルエンザ薬の使い分け
選択肢がたくさんあり、「どれを選べばいいの?」と迷ってしまいますよね!
吸入できる場合、できない場合にわけて解説します。
吸入できる場合
吸入薬は 局所投与 のため、 全身的な副作用が少ない と考えられています。
特に 10代の患者さん には、以下の吸入薬をお勧めします。
- リレンザ:1日 2回 × 5日間
- イナビル:1回の吸入 で終了
リレンザ vs イナビル
特徴 リレンザ イナビル 吸入のチャンス 1日2回×5日間 1回で完了 吸入回数 吸い直しが可能 1回限り 効果のエビデンス 効果が明確 リレンザよりやや弱い 利便性 何度も吸入が必要 1回で済むのは便利
- リレンザ は失敗しても何度か吸入し直せるため、安心感があります。
- イナビル は一度の吸入で終了するので、利便性が高いです。ただし、失敗するとやり直しが効きません。
実情として、利便性から イナビル を希望される患者さんが多いですので、当院でも イナビルを処方 することが多いです。
最終的には 患者さんやご家族の好み で選んでいただいて構いません。
吸入ができない場合
- 年齢が低い(吸入が難しい小さなお子さん)
- 病状(肺炎、喘息、重度の牛乳アレルギー など)
など、吸入がむずかしい場合は飲み薬を使用します。
タミフルとゾフルーザがありますが、上述の理由で、原則タミフルを使用しています。
タミフルの特徴
- 飲み薬 なので、投与できたかどうかが 確実に分かります。
- 小児を含め、 使用経験が豊富 です。
- 抗インフルエンザ薬の中で 唯一ジェネリック があり、コスト面でも安心です。
- 牛乳アレルギーや喘息 でも問題なく使用できます。
まとめ
吸入できる場合
- リレンザ:安心感があるが、5日間必要
- イナビル:1回で完了、利便性が高い
吸入ができない場合
- タミフル(飲み薬):確実に投与でき、使用経験も豊富
- ゾフルーザ:何らかの理由でタミフルが使えない場合
当院では、お子さんの 年齢や病状、生活状況 に合わせて最適な薬を提案いたします。
迷ったときはお気軽にご相談くださいね!
抗インフルエンザ薬以外の治療薬
麻黄湯(まおうとう)
抗インフルエンザ薬ではありませんが、 麻黄湯 という漢方薬が インフルエンザ治療の選択肢 としてよく使用されます。
麻黄湯が適しているケース
麻黄湯は、以下のような場合に使用されます:
- 普段健康で体力がある方
- 高熱 があるが 汗をかいていない 状態
麻黄湯の効果
- 発汗を促し、体温を下げる働きが期待されます。
- 咳や関節痛 の症状にも効果があるとされています。
- インフルエンザウイルスの増殖抑制作用が示唆されており、 科学的な研究 でも一定の効果が報告されています。
こんな方におすすめ
- 抗インフルエンザ薬を使いたくない方
- 薬が使用できない状況 にある方
- 自然な方法で症状を和らげたい と考えている方
注意点
麻黄湯は体力のある方に向いている漢方薬です。
麻黄湯が合わない方もおられますので、他の漢方薬も代替薬として使用しています。
麻黄湯が有名だからと無理して飲む必要はありません。
対症療法薬
解熱鎮痛薬
- 適応:高熱や頭痛、関節痛がある場合
- 効果:体の痛みを和らげ、熱を下げる
小児で使用できる薬剤は アセトアミノフェン のみです。
その他の解熱剤は、インフルエンザ脳症を引き起こすリスクがあるため、避けてください。
鎮咳薬
- 適応:咳がひどい場合
- 効果:咳を抑え、安眠をサポート
抗生物質
抗生物質は インフルエンザウイルスそのものには効果がありません が、
インフルエンザの合併症として 細菌感染 (中耳炎、肺炎など)が起こった場合に使用されます。
注意点
- 細菌感染の可能性がある場合のみ。
- 過剰な使用は耐性菌の出現につながるため、自己判断で使用しないことが重要です。
さいごに
インフルエンザは 早めの対応 でしっかりと治療ができる感染症です。
今回のブログでは、抗インフルエンザ薬や治療法について詳しくお伝えしました。
インフルエンザかな? と感じたら、どうぞ迷わず受診してください。
わからないことや心配なことがあれば、いつでもご相談くださいね。
厚生労働省のパンフレットを載せておきますので、参考にしてください。
感染や重症化リスクを減らすことも重要です。うがい、手洗いや、ワクチンをお忘れなく!
インフルエンザワクチンについてはこちら