鳥と鉛筆

2020.01.05

どれを使うのがベスト?抗インフルエンザ薬について

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インフルエンザの治療ですが、

 

  • 「インフルエンザは抗インフルエンザ薬を使用しないと治らない病気だ」
  • 「発症後48時間以内に治療開始できなかったらオワリ」

 

と思っておられる患者さんが時々おられますが、まず大前提として、通常は自然に治癒する病気です。

 

インフルエンザでも症状が軽度な場合には、必ずしも抗インフルエンザ薬を使う必要はありません

また、薬に頼りたくない方も無理に薬で治療しなくても構いません。

 

抗インフルエンザ薬ははじめて発売された2001年より以前は、インフルエンザの治療薬はなかったわけです。

 

海外では今でもほとんどインフルエンザの迅速検査もしませんし、抗インフルエンザ薬も使用しません。私の留学していた医療環境の良いカナダでもそうでした。世界の抗インフルエンザ薬の約8割を日本が消費しているというのですから異常な状態です。

 

では抗インフルエンザ薬は必要ないのか?

そんなことはありません。素晴らしい薬です。

 

気軽に抗インフルエンザ薬で治療できるほど、日本の医療システムが素晴らしい、という見方もできます。

(ここを書き出すと長くなるので今回は割愛します。)

 

抗インフルエンザ薬の種類

抗インフルエンザ薬には大きく分けて

  • 飲み薬
  • 吸入薬
  • 点滴

があります。

飲み薬:タミフル、ゾフルーザ

吸入薬:リレンザ、イナビル

点滴:ラピアクタ

というラインナップです。

 

抗インフルエンザ薬のメリット

タミフルが発売された2001年というと、私が研修医になった年です。

 

当時病棟にいていた白血病のお子さんがインフルエンザになってしまったんですが、指導医の先生がタミフルを使ったところなんと翌日に熱が下がったのですね。それで指導医の先生が感動しておられたのが非常に印象的でした。

 

やはり抗インフルエンザ薬を使うと早く治るのですね。

特に、このような基礎疾患がある免疫や抵抗力の弱いお子さんにとっては、インフルエンザは治りにくいし重症化もしやすい危険な病気ですので、治療薬には意味が大きいです。

 

科学的に証明されているのは解熱するのが約1-2日早い、というくらいなのですが、みなさん1日でも早く楽になりたいわけで、自分だってかかればタミフルを飲みます。

それに、科学的に証明するのって結構難しいものですから、それが1−2日早く解熱するのが証明されているなんて大したもんです。

私の基本スタンスとしては、

という理由から、原則診断がつけば抗インフルエンザ薬を処方します。

抗インフルエンザ薬のデメリット

抗インフルエンザ薬も他の全ての薬と同じで、体に合う、合わないはあります。アレルギー反応などが起きてしまうこともあるでしょう。そのあたりは特別なことではないのでここでは触れません。抗インフルエンザ薬に特徴的なことを記載します。

 

異常行動

タミフルで異常行動をおこすのではないか?という疑惑が長年ありました。

(平成 19 年2月に、タミフルを服用した中学生が自宅で療養中、自宅マンションから転落死するという事例が2例報道されました。)

 

厚生労働省から一時期10代の患者さんにタミフルの使用を差し控える勧告があり、研究班が結成され調査が行われました。

 

10年以上の研究の総括として、昨年、厚生労働省は以下のような見解を示しています。

  • タミフル服用のみに異常行動と明確な因果関係があるとは言えない。
  • 抗インフルエンザウイルス薬の服用の有無、種類にかかわらず、インフルエンザ罹患時には異常行動が発現
  • タミフル及び他の抗インフルエンザウイルス薬ともに、発現頻度は10 代と 10 歳未満とで明確な差はない

じゃあ、気にせず使用して良いのでしょうか?

 

厚生労働省は以下のようにも述べています。

  • インフルエンザ罹患時に異常行動が発現していることを鑑みれば、タミフルを含め、薬剤と異常行動との因果関係の否定も困難であり、因果関係は未だ不明と言わざるをえない
  • タミフルのみ積極的に 10 代 患者の原則使用差し控えの予防措置をとる必要性は乏しい。

なんだか歯切れが悪く、はぐらかしているみたいで頼りない感じがするかもしれません。

 

しかし、因果関係の完全否定というのは悪魔の証明と言って、いつまでたってもできません。

まあ、注意はしないといけませんが、、、、ここまで調査してくれているんですから大丈夫でしょう。

 

それでは次に抗インフルエンザ薬の特徴をひとつひとつ見ていきましょう。

 

タミフル

元祖抗インフルエンザ薬です。使用経験も長く、異常行動の疑いもほぼ晴れました。

発売後20年経っていますが、大きなトラブルはないといえます。

飲み薬でカプセルだけでなく、小児用のドライシロップもありますので、小さい子にも使いやすいです。

 

1日2回で5日間飲みます。

 

嘔気などの消化器症状が出ることがあります。インフルエンザで高熱で嘔気が出ますので、嘔気が出たからと言って必ずしもタミフルのせい、ということはないでしょうが、、、小さい子では嘔吐して飲めないということを時々経験します。

 

 

リレンザ

2001年にタミフルの次に発売された薬で、吸入薬です。

1日2回を5日間吸入します。

吸入ができる年齢でないと使えません。このため10歳以上にお勧めしています。できる子なら6−7歳くらいから使用できます。

 

今はタミフルが10代に処方制限が解除されたとは言え、10代になれば吸入薬が使用できます。

私としては、吸入できる患者さんに、あえてタミフルを使用しなくても良いかなと思っています。

 

吸入薬は局所投与ですので、その分、全体的に副作用が出にくいです。

 

しかし、逆に吸入薬のデメリットもあります。

喘息がある患者さんでは、気管への刺激になりますから、喘息発作を誘発する可能性があり注意が必要です。

もともとインフルエンザで喘息は悪化しやすいですので、その状況でさらに刺激になる可能性があります。

 

喘息で吸入薬を使用している場合には、

  • 喘息の吸入→リレンザ

の順番で吸入しましょう。

 

吸入する粉末の中に牛乳の成分がわずかに含まれているため、重度の牛乳アレルギーの場合には使用を避けた方が良いでしょう。

 

また、肺炎などがあると、きちんと薬剤が投与できない可能性もあり、避けた方が良いでしょう。

 

イナビル

イナビルも吸入薬です。

 

長時間作用型の薬で、一回吸入するだけで良い、というすごい薬です。

 

この利便性から日本でかなり人気の高い抗インフルエンザ薬です。

 

吸入薬のメリットもデメリットも、リレンザとほぼ同じです。

 

ただ、海外で行われた臨床試験でイナビルの効果が不十分だったという報告があり、イナビルを採用していない国もあります。

日本で行われた試験ではタミフルと同等に有効と言う結果でした。

 

我々日本人に有効であれば問題ないわけですが、研究によっては効果が出ないというのは懸念材料ではありますね。

 

ラピアクタ

点滴の抗インフルエンザ薬です。点滴だからよく効くということはありません。

抗インフルエンザ薬の効果を比較した研究もありますが、どれも特に変わりありませんでした。

 

薬の血中濃度は他の投与方法よりも速やかに上がりますが、それが臨床的に違いがあるほどは差を生まないのです。

タミフル 飲んでいるけど、熱が下がらないのでラピアクタ、というのは意味がありません。点滴するのが痛いだけです。

 

どうしても吸入や内服ができない場合に選択肢となります。

点滴でラピアクタを投与しなければならないような状況とは、どのような状況でしょうか?

  • ぐったりしていて、嘔吐していて飲めない、
  • 肺炎を起こしていて吸入できない
  • 痙攣していて意識がない

などなど、けっこう重篤な状況かと思います。

 

このような患者さんは入院したり検査を受けたりすべきなので、入院できるような病院へ紹介させていただくことがほとんどです。

また、薬価も高いですし、気軽に使うべきではありません。

 

クリニックでラピアクタを使うことはほとんどないと思われます。

 

ゾフルーザ

他の抗インフルエンザ薬は、「インフルエンザウイルスの増殖に欠かせないノイラミニダーゼという酵素の働きを阻害」して薬効を発揮するノイラミニダーゼ阻害薬と呼ばれますが、

 

ゾフルーザはエンドヌクレアーゼ阻害薬と呼ばれる、別の作用機序を持った薬剤です。

 

2018年に登場した新薬で、

これも一回飲んだら終わり、というすごい薬です。

体重10κg以上から処方できます。

飲み薬という、手軽で確実に投与できる方法で、かつ利便性も高いです。

 

インフルエンザウイルスを消失させる速度が速く、他のノイラミニダーゼ阻害薬よりも周りへの感染を減らせるのではないか、ということもメリットと考えられます。

 

ゾフルーザはせっかく唯一の作用機序が違う薬剤なので、ノイラミニダーゼ阻害剤が使用できない、あるいは有効でない患者さんに限定して使うべきでしょう。

 

ところが、昨年のテレビや雑誌が新薬として過剰に取り上げたためか、たいへん話題になり、処方を希望される患者さんが多くでてこられました。

 

その結果、せっかくの素晴らしい新薬が気軽に処方されすぎてしまったために、小児患者の23%、成人では10%程度で耐性ウイルスが検出されました。ゾフルーザが効かないウイルスが出現したのです。

 

耐性ウイルスといってもゾフルーザが効きにくいだけで、特別毒性が強いというわけではありませんが、いざという時の薬の一つが効かない、ということになります。今後毒性の高いものに変異して流行する可能性もあるわけで不気味です。

 

想像してみてください。致死性の高い新型インフルエンザが流行り、タミフルやリレンザなどのノイラミニダーゼ阻害薬が効かない、ゾフルーザは何とか効く、なんてことがあるかもしれません。ゾフルーザがどれほど大切な薬かわかりますよね。使わなくてもいいところで使ったために、肝心な時に使えなくなったら大変なことになります。

 

ゾフルーザに限らず、新規の薬剤は、これまでにない恩恵がある一方、予期せぬ副作用が起こる可能性もありますし、大切に、慎重に使う必要があります。

 

このような経緯から、本年度は日本小児科学会からはゾフルーザの使用を推奨しない以下の提言が出されています。

  • 12 歳未満の小児に対する同薬の積極的な投与を推奨しな い。
  • 一方で現時点においては同薬に対する使用制限は設けないが、使用に当たっては耐性ウイルスの出現や伝播について注意深く観察する必要があると考える。

 

当院でも、もうすこし薬や耐性ウイルスの情報がはっきりするまでは原則ゾフルーザは使用しません。

別にタミフル、リレンザ、イナビルがありますので治療に困ることもありません。

ご理解のほどよろしくお願いいたします。

 

抗インフルエンザ薬の使い分け

 

選択肢が色々あり、どれで治療すれば良いか迷いますね。

 

吸入できる場合

当院では全体的に副作用頻度が少ないため、吸入できる方(特に10代の患者さん)はリレンザかイナビルを使用します。

  • リレンザは1日2回
  • イナビルは1回で終わり

臨床試験で効果がよりはっきりしているのはリレンザです。

また、吸入はちゃんと吸えたかどうか不安です。とくに子供ですから。

 

イナビルは一回しかチャンスがありませんが、リレンザは失敗しても何度も吸うチャンスがあります。

 

また、どんな薬でも薬が合わない可能性はあります。合わなかった時にリレンザはすぐにやめれますが、イナビルは投与終了していますからやめられません。

 

そんなわけで私自身はリレンザを使用しています。

 

ただ、利便性はイナビルの方が高いです。実際イナビルを希望する患者さんが多い、というかほとんどです。

この辺は好みで良いかと思います。

 

吸入できない場合

  • 年齢が低い
  • 病状(肺炎、喘息、つよい牛乳アレルギーなど)

のために吸入ができない場合、タミフルを使用します。

 

タミフルは飲み薬です。投与できたかどうか?と迷いません。飲めたかどうか見ればわかります。

一番初めに登場したため小児含めて使用経験が多く、また抗インフルエンザ薬として唯一ジェネリックも出ています。

牛乳アレルギーでも喘息でも関係なく投与できます。

 

ゾフルーザは同じように飲み薬ですが、上記理由で当面は原則使用しません。

タミフルやリレンザ・イナビルで十分問題なく治療できます。

 

麻黄湯

最後に、抗インフルエンザ薬ではありませんが、麻黄湯という漢方薬があります。

インフルエンザに有効でよく使用される漢方薬です。

 

  • 普段健康で体力があり
  • 高熱だが汗をかいていない

場合によく使います。

 

抗インフルエンザ薬を使いたくない人、何らかの理由で使えない人は使用を検討すると良いです。

 

さいごに

抗インフルエンザ薬について書きました。

 

ならないに越したことはありませんが、なってしまえば早めに治療しましょう。

ならないようにワクチンをお忘れなく!ワクチンにより感染しにくくなりますし、かかっても重症化しにくくなります。

インフルエンザワクチンについてはこちら

 

抗インフルエンザ薬で治療する場合には、発熱から48時間以内に治療を開始する必要があります。(48時間以上経過した後に治療した場合には、有効性を裏付けるデータがありません。)

 

ただ、治療効果は解熱を1−2日短縮できるというものですので、残念ながら使用したらすぐに治る、というものではありません。

また、必ず抗インフルエンザ薬を飲まないといけないというものでもありません。

 

しっかり水分をとって安静にしてひどくならないようにしましょう。

 

また、抗インフルエンザ薬で治療する、しないにかかわらず、インフルエンザの際には異常行動がないか(特に発熱して2日間)注意しましょう。厚生労働省のパンフレットを載せておきますので、参考にしてください。

 

 

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