2025.08.13
最終更新日: 2025年08月14日
小児喘息の吸入治療ガイド|薬の種類と上手な使い方
目次
はじめに
小児喘息の治療では、「発作時に対応すること」と「発作を予防すること」の両方が大切です。
特に吸入療法は、薬を直接気道に届けて効果を発揮できる治療法であり、正しく行えば副作用も少なく安心して使用できます。
この記事では、**発作時に使う薬(リリーバー)と発作を予防する薬(コントローラー)**の違いから、
吸入デバイスの選び方や正しい使い方まで解説しています。
小児喘息における吸入療法の基本と重要性
気管支喘息は、気道に慢性的な炎症が起きている状態です。
この炎症を放置していると、ちょっとした刺激(風邪や運動、アレルゲン)ですぐに発作が起きてしまいます。
喘息の治療は、「発作が起きたときだけ薬を使う」ことはもちろん、
発作が起きないようにするために日頃からコントロールすることが重要です。
これを「長期管理」といいます。
発作時、長期管理の両方に非常に効果的な方法が「吸入療法」です。
なぜ吸入療法が効果的なの?
薬を直接気道に届けるため、少ない量で効果が得られます。
全身への副作用が少なく、安全に使用できます。
発作時にも即効性のある薬剤が使えます。
発作時治療薬(リリーバー)
発作時に呼吸を楽にするための発作時治療薬を「リリーバー」と呼びます。
気管支を素早く広げて呼吸を楽にし、発作の苦しさを和らげる目的で使用します。
飲み薬や貼り薬よりも圧倒的に効果が出るのが早く、ちょくちょく発作が出るお子さんには必須の治療法と言えます。
ただし、発作時治療薬はあくまで「対症療法」ですので、
発作が起きないようにする「長期管理」も必ず行う必要があります。
主な発作時治療薬
✅ メプチン®(プロカテロール)
使用目的:発作時の気管支拡張、即効性あり
使用方法:ネブライザーまたはpMDI(エアゾール)(+スペーサー)
副作用:動悸、手の震え、一時的な興奮(通常は短時間で改善)
長期管理薬(コントローラー)
喘息の「長期管理薬」は、発作を予防し、気道の慢性的な炎症を抑えるために使用します。
症状がなくても継続的に使用することで、発作の再発や悪化を防ぐことができます。
主に使用される薬剤
✅ 吸入ステロイド薬(ICS)
飲み薬を飲んでいても発作が出てしまう場合には、吸入ステロイド薬(ICS)を使用します。
以前は副作用の懸念からかなりしんどくならないと使いませんでしたが、
最近は、吸入の副作用の少なさ、発作抑制効果の強さから、積極的に使用されるように変わっています。
いろいろなタイプのものが出ていますが、薬の特徴や保険適応上の年齢制限などを踏まえて、
良いと思われるものを選択させていただいております。
当院で使用している薬剤の一部をご紹介させていただきます。
薬剤名 | 特徴 |
---|---|
フルタイド®(フルチカゾン) | 小児への使用実績が豊富。DPI(ディスカス)とエアゾール(pMDI)の両方あり。量設定も豊富で使いやすいものが選べる。 |
パルミコート®(ブデソニド) | ネブライザーで使用でき、乳幼児から使用可能。 |
キュバール®(ベクロメタゾン) | 粒子が小さく、肺への沈着率が高い。pMDI(エアゾール)タイプでスペーサー併用が効果的。 |
オルベスコ®(シクレソニド) | プロドラッグ型で副作用が少ない。1日1回で効果が持続。pMDI(エアゾール)タイプのみ。 |
※オルベスコ® について
吸入ステロイドにもいろいろ種類がある中で、オルべスコには面白い特徴があります。
オルベスコは吸入後に肺で活性化するプロドラッグ型のため、副作用が少なく、
のどの不快感や口腔カンジダの発生も抑えられるのが特徴です。
1日1回の吸入で効果が持続するため、続けやすい治療法として当院でも特におすすめしています。
(年齢によっては使用できません)
✅吸入ステロイド薬(ICS)+ LABA (長時間作用型の気管支拡張剤)合剤
LABAはLong-Acting Beta2-Agonist(長時間作用型β2刺激薬)の略です。
β2刺激薬とは気管支拡張剤です。
発作でしんどい時に使う薬なのですが、これが長期管理目的として、「長時間作用型」で設計されています。
即効性はありませんが、作用が12〜24時間持続するのが特徴です。
これが吸入ステロイド(ICS)と配合されています。
薬剤名 特徴 アドエア®(フルチカゾン+サルメテロール) ディスカス(DPI)とエアゾール(pMDI)製剤の両方があり、年齢や吸入の得意不得意に合わせて選択可能。 フルティフォーム®(フルチカゾン+ホルモテロール) エアゾール式。カウンター付きで残量管理がしやすい。即効性もあり、発作予防に有効。 レルベア®(フルチカゾンフランカルボン酸エステル+ビランテロール) 1日1回の簡単な吸入で効果が持続。ディスカスに似たDPIタイプで操作もシンプル。
基本は吸入ステロイド(ICS)単体でのコントロールを目指しますが、
それだけで咳や喘鳴がなかなか治まりきらない時には使用します。
ちなみに、アドエアは低年齢でも保険適応があり、そう言う意味ではとても使用しやすいです。
吸入デバイスの使い分け
吸入薬は「どのデバイス(吸入器)」で使用するかによって、効果や使いやすさが大きく変わります。
お子さんの年齢や発達に合わせて適切なデバイスを選ぶことが大切です。
主な吸入デバイス
デバイス 特徴 メリット デメリット pMDI(エアゾール式) スプレー式の吸入器。フルタイド、アドエア、オルベスコなど。 コンパクトで持ち運びやすい。スペーサー併用で乳幼児にも使用可能。 吸入と噴霧のタイミングを合わせる必要がある。(無理な場合はスペーサー併用が必要) DPI(ドライパウダー式) 粉末状の薬剤を吸い込む。フルタイド(ディスカス)、アドエア(ディスカス)、レルベアなど。 吸入操作が簡単。タイミングを合わせる必要なし。 吸う力が弱いと十分に薬剤が吸入できない。粉でむせやすい。 ネブライザー 薬液を霧状にして吸入。パルミコート、インタール、メプチンなど。 小さな子どもでも使用可能。マスク装着で自然な呼吸で吸入できる。 吸入に時間がかかる。装置が大きく携帯性は低い。
pMDI(加圧式定量噴霧吸入器)について
**pMDI(加圧式定量噴霧吸入器)**は、喘息治療に使用される「吸入薬のデバイス」の一種で、
薬剤を霧状に噴霧して吸い込む装置です。
よくある、ボタンを押すとプシュッとエアーが出るタイプで、
「プッシュ式吸入器」「エアゾール式吸入器」とも呼ばれます。
手軽、簡易で使いやすく、持ち運びもしやすく、とても便利です。
デメリットとして、
pMDIは吸入と噴霧のタイミングを合わせる必要があるため、
6歳未満の子どもではほぼ必ずスペーサー(補助器具)を使用します。
スペーサー(吸入補助具)について
小児喘息治療では、pMDI(エアゾール)を使う場合に**スペーサー(吸入補助器具)**の使用がとても重要です。
特に幼児は吸入と噴霧のタイミングを合わせることが難しいため、
スペーサーを使うことで確実に薬を肺に届けることができます。
おすすめは「エアロチャンバープラス」
日本でも広く使用されており、マスク付きタイプは乳幼児にも対応。
逆流防止弁がついているため、一方通行で安全。
抗静電気処理がされており、薬剤の無駄な付着を防止します。
製品のページはこちらです。
薬局さんでも注文できますが、Amazonとかでも購入可能です。
とりあえずであれば、エアロチャンバープラス以外にも安価なものもたくさんあります。
あるのとないのとでは大違いですので、
薬を吸えているかどうか怪しいお子さんには安価なものでも良いですので、是非使用してみてください。
ただ、吸入薬を処方されるということはそれなりにしんどい喘息のはずです。
メプチンだけでなく、ステロイドなど他の薬剤も使用していく場合には
安価なものですと差し込み口が合わなかったりする場合もあります。
しっかりと喘息治療に取り組む場合には、良いものを購入される方が使いやすいでしょう。
逆に、自分でうまく吸えるお子さんでしたら必要ありません。
使用のポイント
吸入後は必ず口をすすぎましょう(カンジダ症や声枯れの予防)。
定期的にスペーサーも洗浄・乾燥させて清潔に保つことが大切です。
ネブライザー(喘息用吸入器)について
ネブライザーは自然な呼吸で吸入でき、低年齢から使用できるメリットがあります。
それぞれの役割や使い方をしっかり理解して、正しく治療を行いましょう。
ネブライザーの種類|メッシュ式とコンプレッサー(ジェット)式の違いは?
現在、家庭で使えるネブライザーには主に以下の2種類があります。
メッシュ式ネブライザー
超音波振動で霧を発生させる、軽量・静音・コンパクトなタイプ。
✔ 特徴
小型・軽量で持ち運びに便利
作動音が静か(夜間でも使いやすい)
電池やUSB充電で動く機種が多い
吸入時間が比較的短い
❗ 注意点
詰まりやすく、こまめな洗浄・乾燥が必要
使用できる薬剤に制限がある機種も(例:懸濁液が使えないなど)
高価な傾向がある(1〜2万円程度)
コンプレッサー式(ジェット式)ネブライザー
エアポンプで空気を送り、薬液を霧化する従来型のタイプ。
✔ 特徴
広範な薬剤に対応(ICS・抗アレルギー薬・β刺激薬すべてOK)
薬剤が霧になりやすく、粒子径が安定している
詰まりにくく、頑丈
❗ 注意点
本体が大きくて重い
作動音が大きく、夜間には気になることも
電源が必要(持ち運びに不向き)
ネブライザーの【比較まとめ表】
項目 メッシュ式 コンプレッサー(ジェット)式 駆動方式 超音波振動 空気圧(エアポンプ) 大きさ・重さ 小型・軽量 大型・やや重い 静音性 非常に静か 音が大きい(ブオーッという音) メンテナンス性 詰まりやすく洗浄が必要 比較的手間が少ない 薬剤の適応範囲 機種により制限があることも ほぼ全薬剤に対応可能 持ち運び ◎ △(基本的に自宅用) 価格帯 やや高い(1〜2万円前後) 比較的安価(〜1万円前後)
ネブライザーの選び方のポイント
自宅でしっかり治療をしたいならコンプレッサー(ジェット)式がおすすめ。薬剤の種類を気にせず使えます。
外出先や夜間にも対応したい場合はメッシュ式が便利。ただし、洗浄はしっかり!
使う薬剤や症状、年齢にもよりますので、初回処方時にはしっかり相談させていただきます。
ネブライザーで使う薬剤
メプチン®(プロカテロール)
分類:短時間作用型β2刺激薬(SABA)
発作時にすばやく気管支を広げる薬です。
「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった苦しい症状が出た時に使います。
使用目的
喘息発作時の症状改善(リリーバー)
使用方法
必要時に使用(発作が出た時や苦しい時)
インタール®(クロモグリク酸ナトリウム)
分類:抗アレルギー薬(メディエーター遊離抑制薬)
インタールは、かつては喘息治療の「長期管理薬(コントローラー)」として広く使われていました。
しかし、現在は**「効果が限定的」**であることが分かっており、
吸入ステロイド薬(ICS)に置き換えられることが一般的です。
ただ、喘息発作時にネブライザーを使用する際に、メプチン単剤ですと液量が少なすぎて吸入できません。
インタールは安全性が高いこともあり、
効果を期待するというよりも液量を増すために使用されているのが実態といえます。
パルミコート®(ブデソニド)
分類:吸入ステロイド薬(ICS)
気道の炎症を抑え、喘息の発作を防ぐ最も重要な長期管理薬です。
使用目的
喘息の長期管理と発作予防(コントローラー)
使用方法
1日1〜2回の定期的な使用
ネブライザーで吸入する場合は「パルミコート吸入液」を使用
ネブライザーで使用する吸入薬のまとめ比較表
薬剤名 | メプチン® | インタール® | パルミコート® |
---|---|---|---|
分類 | 発作時治療薬 | 抗アレルギー薬 | ICS(ステロイド) |
主な役割 | 発作時の症状改善 | 発作予防(継続使用) | 発作予防(継続使用) |
即効性 | あり(数分で効果) | なし | なし(継続で効果) |
使用タイミング | 発作時・必要時 | 毎日定期的に使用 | 毎日定期的に使用 |
副作用 | 動悸、手の震え | ほぼなし | 嗄声、口腔カンジダ |
ネブライザー用の薬剤の混合使用について
パルミコート®とメプチン®は一般的なジェット式ネブライザーでは混合吸入が可能です。ただし、混合後はすぐに使用し、保存は不可です。
一方で、メッシュ式ネブライザー(例:オムロンU100など)では混合は非推奨です。安全性の問題はありませんが、メッシュ部分の目詰まりや噴霧効率の低下が起こる可能性があります。
- メプチン®(プロカテロール)とインタール®(クロモグリク酸ナトリウム)は混合可能です。この2剤は水溶性の液体であり、混合による物理的・化学的な問題は基本的にありません。ただし、混合した場合はすぐに使用すること。長時間放置すると薬剤が変質する恐れがあります。
というわけで、混合した場合でも体に害はありませんが、メッシュ式では十分な薬剤量が気道に届かない恐れがあります。
ジェット式では混合してOK。
メッシュ式では「混合してもよいが、可能なら別々に吸入した方が確実。パルミコート®を使用する場合目詰まりしないようにメンテナンスが欠かせない」。
7. オムロンネブライザー機種比較
オムロン社のネブライザーは小児喘息の現場でもよく使用されており、それぞれの機種の特徴を理解しておくと便利です。
参考までに下記を紹介しておきます。
(都度最新モデルも出るでしょうから、ご検討の際にはオムロンのサイトで確認してくださいね!)
機種 | 方式 | 特徴 | メプチン・パルミコート混合 | 向いている年齢層 |
---|---|---|---|---|
NE-U100 / NE-U150 | メッシュ式 | 超小型・静音性に優れる。携帯性重視。 | 別々が望ましい | 外出先用/乳幼児から使用可能。 |
NE-C803 | コンプレッサー(ジェット)式 | コストパフォーマンス良好。混合吸入可能。 | 可能 | 据え置き型/乳幼児から使用可能。 |
小さいお子さんへの吸入のコツ
吸入療法は、正しい方法で実施しないと十分な効果が得られません。
特に小さなお子さんは上手に吸入できないことも多いため、保護者のサポートが欠かせません。
吸入のポイント
スペーサーの積極的活用
特にpMDI(エアゾール)使用時は、エアロチャンバープラスなどのスペーサーを使用しましょう。
スペーサーを使うことで薬剤が口やのどに付着するのを防ぎ、肺にしっかり届きます。
落ち着いた環境で行う
子どもが怖がらないよう、リラックスできる環境で行うことが大切です。
ゲーム感覚で行うのも効果的です。
吸入後のケアも忘れずに
吸入ステロイド薬を使用したあとは、必ずうがいをしましょう(口腔カンジダや声枯れ予防)。
小さなお子さんは水を飲ませるだけでも多少の効果があります。
各薬剤の副作用と安全性(特にICSと成長)
吸入療法は安全性が高いとされていますが、薬剤ごとに副作用の特徴があります。
正しい使用方法を守れば過剰に心配する必要はありませんが、知識として知っておくことは重要です。
吸入ステロイド薬(ICS)の副作用
局所的な副作用
→ 口腔カンジダ症(鵞口瘡)、声枯れ
※吸入後のうがいでほぼ予防可能です。全身性の副作用は極めて少ない
通常使用の範囲では心配はほとんどありません。
成長への影響は?
保護者の方からステロイド使って「身長への影響は大丈夫ですか?」と質問を受けることもあります。
当院は低身長治療にも取り組んでいますので、もちろんこの点も考慮しています。
代表的な研究として、CAMP試験(Childhood Asthma Management Program) があります。
→ 初期に約1〜1.5cmの成長抑制が見られましたが、最終的な成人身長に差はなかったと報告されています。喘息のコントロールが悪いと成長に悪影響を与えますので、適切にコントロールすることが最終的には身長にも重要と考えられます。
当院で治療継続やステロイドの増量を指示されている方は、この点も考慮した上での指示ですので、
ぜひ不安になられず、指示通りの継続をお願いいたします。
まとめとアドバイス
喘息治療は「発作が起きたときに治す」だけでは不十分です。
発作を起こさないために、正しい吸入療法を継続することが最も重要です。
お子さんが健やかに生活できるよう、次のポイントを意識しましょう。
治療継続のポイント
症状がないときこそ治療の継続が大切です。
吸入や内服は毎日同じ時間に行うと習慣化しやすくなります。
副作用が不安な場合は、遠慮なくご相談ください。
保護者とクリニックがチームとなって、お子さんの健康を守ることが大切です。
当院では呼気NO(FeNO)測定による炎症の評価や、丁寧な吸入指導を行い、
一人ひとりに合わせた治療プランをご提案しています。
吸入器の選び方や使用方法でお困りの場合は、いつでもお気軽にご相談ください。