2020.03.15
しばらく検査や処置に影響が出ます! 新型コロナウイルスのエアロゾル感染予防
先週末にコロナウイルス感染症の感染拡大を防止するために、厚生労働省や医師会から通達がありました。
その中の内容に、エアロゾルを発生させる処置をおこなわないように、というものがありました。
小児科の診療にも重要な内容ですのでブログに書かせていただきます。
目次
エアロゾル感染のリスクのある処置が禁止になります!
エアロゾル感染のリスクのある処置とは、具体的にはどのような処置でしょうか?
それは以下のようなものです。
- 鼻やのどの検査(インフルエンザウイルスやヒトメタニューモウイルス、溶連菌などをスワブで調べる迅速検査など)
- ネブライザー(喘息や副鼻腔の治療に使います。)
- 鼻汁吸引
などがあります。
エアロゾル感染とは?
エアロゾルと言っても分かりにくいと思うのですが、簡単にいうと空中を浮遊する水しぶきのようなものです。
上記規制対象の処置をイメージしてみてください。
子供はこれらの処置を嫌がりますから、泣いたり唾を飛ばしたり大騒ぎですよね。
たしかにウイルスを含んだ飛沫が舞ってしまいそうな処置になっています。
さて、コロナウイルス感染症の感染ルートは
- 接触感染(触るとうつる) →手洗いや消毒で予防!
- 飛沫感染(たんや鼻水でうつる) →マスクで予防!
がメインと考えられています。
これらは普通の感染対策(手洗い、マスク、消毒などなど)で対応可能です。
しかし、咳や鼻に含まれたウイルスがエアロゾルとなり浮遊すると、マスクの性能にもよりますが、マスクをウイルスがすり抜ける可能性も十分あり、直接咳を浴びていなくても、マスクをしていてもうつる可能性があるわけです。
新型コロナウイルス感染がクリニックで発生したらどうなるのか?
現在病院でコロナウイルウス患者さんがでてしまうと、濃厚接触者として、2週間閉院になります。
最初はこれで良かったと思います。ウイルスの挙動もわからないし、とにかく広げないために必要な措置です。
しかし、すこしずつではありますがウイルスの様子が分かってきていますし、もう完全にウイルスを封じ込めるのは無理でしょう。今は感染拡大のスピードをコントロールすることが中心となっています。
こうなると、近い将来あちこちに感染者が出るわけですが、それでクリニックや病院がどんどん2週間閉院になったらどうなるでしょうか?
みなさん受診する病院がなくなりますね。医療崩壊です。
「コロナウイルス感染患者さんがいたらとりあえず閉院」という方法ではこれからは対応できなくなってきます。
今回の厚労省や医師会の通達は、
- 各病院がきちんと感染対策をして、感染者が万が一紛れていても、他の患者さんにも医療者にも感染しないようにする。
- 病院閉鎖を防ぐことで、医療崩壊を防ぐ。
という目的だと私は思っています。
実際、今回この記事にはエアロゾルのことばかり書いていますが、通達には、ほかにも感染対策についての指示も出ています。
当院もこれにのっとって、可能な限りの感染対策を行い、患者さんに安心してきていただける体制を取りたいと思います。
ご不便をおかけしますが、ご協力をお願いしたいと思います。
(こちらは当院のポスターです。)
迅速検査はできなくて大丈夫?
検査は必須ではない
じゃあ、「迅速検査ができないのは分かったけど、それで診療は大丈夫なの?」という疑問が出ると思います。
迅速検査は便利な検査です。かかっている感染症の種類がわかることは、たとえ治療薬がなくてもメリットがあります。
その感染症の特徴・経過や注意点などがわかるからです。
ただ、検査はあると便利ではありますが、必須ではありません。私自身の診療スタイルは何ら変わりません。
迅速検査をする時はどんな時でしょう?
熱出ているからと絨毯爆撃のようにRS、アデノ、溶連菌、インフルエンザと調べれば、どれかに当たる可能性はありますが、
これは検査されるお子さんも大変ですし、医療費の無駄遣いです。このような診療はしていません。
小児科医はいろいろな感染症を経験しています。
問診・診察をした上で、どの感染症か?を予測します。そして、大きくは外れません。
しかしながら、もちろん予想外の経過をとる場合もありますから、100%当たるわけではありません。
100%当たるわけではない、というのは自信がないということではありません。
100%当たるとか言っている医者はヤブ医者です。患者さんの数を経験すればするほど予想外のことはあるものです。
経験すればするほど謙虚になるものです。
ですから診断精度を上げるために検査をします。
それに検査結果があったほうが、説得力もありますし、患者さんにも説明しやすいですしね。
でも、なくても診療できないことは全然ありません。
だいたいの判断は問題なくつきます。この判断は検査をしてもしなくてもあまり変わらないのです。
それは、検査に頼って診療しているわけではないからです。
検査は間違えることもある
逆に、検査が間違えることもあります。(偽陽性・偽陰性といいます)。医師と同じで、検査だって100%ではありません。
本当はインフルエンザなのに検査すると陰性(偽陰性)とでることもあります。
ですから結局、検査結果と逆の判断・治療をすることもあります。
インフルエンザ検査で陰性でも、症状や流行状況からインフルエンザが疑わしいなら、抗インフルエンザ薬を使うこともある、ということです。
それが一番患者さんにメリットがあると思うからです。
結局は、症状や検査を見て総合的に判断する、のが大切です。
そういうわけで、検査があった方が良い場面も確かにありますが、治療上困ったことにはなりません。
患者さん側としては検査結果を見た方が安心、ということはあるかもしれませんが、治療上大きな違いはないわけで、
新型コロナウイルス感染症対策とのトレードオフなので、ご理解いただきたいと思います。
鼻汁吸引やネブライザーができなくて大丈夫か?
これは、、、、正直困っています。実際、これらの処置をすることで楽になるお子さんがおられるからです。
喘息発作ですとネブライザーで気管支拡張剤を吸入しないと治りません。
これを我慢するのは無理です。
鼻が詰まって呼吸困難になっている新生児で、鼻汁吸引で見違えるようによくなることもあります。
これも我慢するのは無理です。
これらの処置を防護服なしで行うことは許されないのですが、防護服も一般クリニックでは手に入らない状況です。
さすがに、これらの処置目的だけで大きい病院を紹介するわけにもいきません。困ったことです。
処置をしないようにする行政の勧告の理屈は理解できるのですが、ここはもうすこし現場の実態に合った方法に勧告を修正していただきたいと思うところです。
現在の状況ですと、原則お断りをせざるを得ませんが、治療上どうしても必要な場合もありますので、
「個別に、院内の感染リスクを上げずに治療するやり方を相談する」という形にさせていただきます。
- 処方を工夫する
- 自宅でできることを自宅でしていただく
などの対策もおこない、できる限り患者さんが困らないように、治療上の不利益がないように考えていきたいと思っています。
さいごに
現時点で当院にはまだ怪しい患者さんは全くこられていませんが、そうは言っても無症状のコロナウイルス感染患者さんもおられますから、前もって誰が感染のリスクがあるのか?を判断するのは難しいです。
そのなかで院内で感染者を出さないようにするには、疑わしい人がいようがいまいが、通常の感染対策に加えて、エアロゾル感染を起こす可能性のある処置を原則禁止とするしかない状況です。
血液検査やレントゲンなどは他の検査は問題なく可能です。
すこしご不便をおかけしますが、それで患者さんに不利益が出ないようにしっかりとした医療を提供させていただきたいと思います。
また、このような対策をしっかりすることで、安心して受診していただけるクリニックにしたいと思っております。
ご理解よろしくお願いします。