2025.04.23
最終更新日: 2025年04月23日
ゼーゼーしてきたらどうする?小児喘息の発作時にやるべきこと
はじめに
「喘息」と言われると、「ずっと治らないの?」「発作が起きたらどうしよう」と不安になりますよね。
小児喘息の治療は、大きく2つの視点で考えるとわかりやすくなります。
発作が起きたときの治療(急性期対応)
発作を起こさないための予防・長期管理
今回はこのうち、「発作時の治療(急性期対応)」について詳しくお伝えします。
お子さんが急にゼーゼーしはじめたとき、どのように対応すればよいか。どんなお薬があるのか。
当院で行っている治療内容やご家庭での対応方法も含めて、わかりやすく解説していきます。
発作が起きたときの治療(急性期の対応)
小児喘息の発作は、気道が急に狭くなり、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった音を伴う呼吸や、激しい咳が続く状態を指します。
このようなときは、「いつもの風邪かな?」と様子を見るのではなく、
できるだけ早く治療を始めることが大切です。
喘息発作は、適切な治療をすればしっかり改善できる病気です。
主な喘息の治療薬
喘息発作が起きたときには、呼吸を楽にしてあげるための薬をできるだけ早く使うことが重要です。
当院では、症状の強さやお子さんの年齢、これまでの経過に応じて、以下のような治療を行っています。
■ 気管支拡張薬(プロカテロール/メプチン)
気管支拡張薬は、気道の筋肉を一時的にゆるめて、狭くなった気管支を広げることで、呼吸をスムーズにするお薬です。
その中でも、発作時にすぐ効くタイプは
👉 **短時間作用型β2刺激薬(SABA)**と呼ばれ、喘息発作の第一選択として使われます。
短時間作用型β2刺激薬(SABA) は、
Short-Acting Beta₂-Agonist(短時間作用型β2刺激薬) の略です。
Short-Acting(短時間作用型):
薬の効果がすぐに現れるが、持続時間は短め(通常4〜6時間)Beta₂(β2):
気管支の筋肉に存在する「β2アドレナリン受容体」に作用するAgonist(刺激薬):
受容体を刺激して、気管支を拡張する働きをする薬
短時間作用型β2刺激薬(SABA)は「発作時にすぐに呼吸を楽にする」ための薬で、いわゆる“レスキュー薬”にあたります。
長期管理には使わず、必要な時にだけ使うのが基本です。
代表的なSABAには、**プロカテロール(商品名:メプチン)やツロブテロール(ホクナリンテープ)**があります。
吸入薬(メプチン吸入液)
数分以内に効果が出る即効性のある薬です。
ネブライザーを用いて吸入します。
強い発作時の第一選択となります。
内服薬(メプチンシロップ・ドライシロップ・錠剤)
吸入よりも効果発現は遅いものの、6〜12時間と持続時間が長めです。
吸入が難しい場合や予防的な使用にも向いています。
貼付薬(ホクナリンテープ)
ツロブテロールという同系統の薬剤で、皮膚からゆっくり吸収されます。
作用は穏やかで長時間(12〜24時間)持続し、吸入や内服が難しいお子さんにも使いやすいのが特徴です。
発作時の即効性には乏しく、急性期治療にはあまり向いていません。
副作用と注意点
手のふるえ、動悸、興奮、不眠、軽い胃の不快感などが出ることがあります。
特に貼付薬は便利な反面、連日使用によって薬が効きづらくなる「耐性」がつく可能性もあるため、漫然と使い続けないように注意が必要です。
▼ 気管支拡張薬の使い分け比較
種類 使用方法 効果の出方 効果の長さ 特徴 吸入薬(メプチン吸入液、メプチンキッドエアー) 吸入(必要に応じてネブライザーやスペーサーを使用) 数分以内 約4〜6時間 即効性があり、発作時の第一選択 内服薬(メプチンシロップ・ドライシロップ錠剤) 飲み薬 30分〜1時間 約6〜12時間 吸入が難しいときや予防に有効 貼付薬(ホクナリンテープ) 皮膚に貼る 1〜2時間 約12〜24時間 持続は長いが即効性に欠ける。補助的に使用
※出典:日本小児アレルギー学会ガイドライン2021/各薬剤添付文書
それぞれに即効性・持続性・使いやすさのバランスがあり、症状や年齢、生活スタイルに応じて最適なものをご提案しています。
■ 抗アレルギー薬(急性期にも使用)
喘息は「気道のアレルギー反応による炎症」がベースになっているため、
発作時にも抗アレルギー薬を補助的に使うことで悪化を防ぎやすくなります。
もともと長期管理でも用いることが多い薬ですが、
急性期にも役立ち、副作用も少ないため、初期から追加することも多いです。
プランルカスト(オノン)
- 分類:ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)
- 特徴:気道の過敏性をやわらげ、炎症を抑えます
- 副作用:比較的少ないが、まれに胃腸症状(腹痛・下痢)などがあります
モンテルカスト(キプレス/シングレア)
分類:ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)
特徴:夜間の咳や運動誘発性の喘息にも効果が期待できます
副作用:不眠・興奮・イライラなど、精神神経系の副作用がまれに報告されています(※注意して観察しましょう)
トラニラスト(アイピーディ)
分類:ケミカルメディエーター遊離抑制薬
特徴:ややマイルドな作用だが、薬剤の系統が上記と異なるため、とても効果が出るお子さんもおられます。
副作用:まれに肝機能異常があるため、長期使用では血液検査での確認が必要な場合も
その他の補助治療
咳止め薬・去痰剤
対症療法として咳止めや去痰剤も有効です。
気管支拡張剤と併用して使うことで楽に過ごすことができます。
ご家庭でできる工夫
お薬に加えて、日常生活の中でできるちょっとした工夫も、喘息発作の予防や軽減に役立ちます。
✅ 発作時やその予兆があるときにおすすめの工夫:
加湿:空気が乾燥すると気道が刺激されやすくなります。加湿器や濡れタオルを活用しましょう
姿勢を起こす:座ったり、上半身をやや高くすると呼吸が楽になります
安静にする:走ったり興奮すると悪化することがあります。ゆっくり落ち着いて過ごしましょう
刺激物を避ける:タバコの煙、香水、強いニオイ、寒風などは避けてください
このように、「何が引き金になるか」を知り、あらかじめ備えておくことが、喘息をコントロールする第一歩になります。
悪化の引き金に対する対策
喘息の発作は、風邪・アレルギー・乾燥などの環境要因によって誘発・悪化することがあります。
こうした引き金に対して早めに対応しておくことで、発作を抑えることが可能です。
ここでは、ご家庭でできる「発作を悪化させないための工夫」を3つの観点からご紹介します。
風邪(感染症)への対策
風邪(ウイルス感染)は、小児喘息の発作の最も多い引き金のひとつです。
感染症を適切に治療することで、喘息を悪化させる原因(誘因)を取り除くことにつながります。
✅ 風邪をひいたときのポイント:
早めの吸入や内服の追加
咳止めや去痰剤を補助的に使用することもあります
症状が軽いうちに受診を
アレルギー性鼻炎の管理
喘息と鼻炎は「同じ気道の病気(One airway, One disease)」と考えられています。
アレルギー性鼻炎の管理が悪いと、喘息発作も悪化すると考えられます。
こちらも同時進行で治療を行います。
👉 詳しくはこちらの記事もご覧ください:
▶ アレルギー性鼻炎の解説
自宅での吸入治療について
当院では、必要に応じてご家庭での吸入治療も積極的にご提案しています。
とくに、発作が時々起こるお子さんの場合は、病院が閉まっている時間帯でも対応できるように、自宅での吸入ができるよう準備しておくと安心です。
▼ こんなご家庭におすすめ
発作が年に数回以上ある
夜間や休日に症状が出ることがある
これまでに救急受診をしたことがある
小さなお子さんで、吸入が必要になることが多い
▼ 使用する吸入器具の種類
当院では、以下のような器具をご案内しています。
● ネブライザー(例:オムロン 社のものがオススメ)
薬液を細かいミストにして吸入
小さなお子さんでも自然な呼吸で吸える
吸入に5〜10分かかるが、薬の種類が豊富に使える
● スペーサー(例:エアロチャンバープラス)
MDI(定量噴霧式吸入薬)を使うときの補助具
短時間で吸入が完了(1〜2分)
外出先でも使いやすく、静かで嫌がられにくい
👉 年齢や症状に応じて、どちらが合っているかご相談のうえでご案内いたします。
当院では、症状や年齢に合わせて吸入方法を丁寧に指導し、ご家庭でも無理なく使えるようサポートしています。
自宅での吸入治療は、お子さんの喘息を安心して見守るための大きな支えになります。
「どんな吸入器がいいの?」「ちゃんと吸えているか不安…」という方も、お気軽にご相談ください。
おわりに
小児喘息は、急な発作への対応と、普段からの備えや予防の両方がとても大切です。
今回はその中でも、「発作が起きたときの治療(急性期対応)」に焦点を当ててお伝えしました。
適切なタイミングでお薬を使い、悪化のきっかけを避ける工夫をすることで、
お子さんが元気に日常生活を送れるようサポートすることができます。
また、発作をくり返す場合や、コントロールがうまくいっていないと感じるときには、
呼気中の一酸化窒素(FeNO)を測定することで、気道の炎症が残っていないかを確認することもできます。
FeNO検査について詳しくはこちらの記事でご紹介しています:
▶「見えない炎症」を見える化するFeNO検査とは?
少しでも気になる症状がある方は、ご相談をお待ちしております!