鳥と鉛筆

2020.04.29

リュープリン治療?思春期早発症について


思春期早発症とは?

 

思春期早発症のお子さんの受診が増えてきたので、解説記事を作りました。

 

  • 男の子で早く声変わりしたり、陰毛が生えたり、
  • 女の子で早く生理が来たり、

 

このような時、思春期早発症を疑います。

 

思春期早発で何が問題でしょうか?

 

  • ストレス
  • 低身長

 

体が二次性徴で周りのお子さんよりも早い時期に変化するので、精神的なストレスになる可能性があります。

 

一時的に身長が伸びて高身長になるのですが、早い段階で骨が成熟して成長が止まってしまうため、最終的に低身長になってしまいます。

 

これを防ぐためにはリュープリンという薬で治療することもあります。

 

どんな病気か?どのような治療か?見ていきましょう。

 

何歳から二次性徴がきたら思春期早発症?

 

思春期というと、女の子は10歳頃、男の子は12歳頃よりはっきりしてきます。

これが、2〜3年程度早く始まってしまうのが、思春期早発症、と考えます。

 

ただ、最近は思春期がやってくるのが早い傾向にあり、なかなかどこで早すぎるのかどうか?の線引きをするのが良いかは、なかなか難しいところです。

 

男の子の思春期早発の目安

  1. 9歳未満でおちんちんなどの変化
  2. 10歳未満で陰毛
  3. 11歳未満で、腋毛、ひげ、声変わり

 

女の子の思春期早発の目安

  1. 7歳6ヶ月未満での乳房発育
  2. 8歳未満で陰毛発生、腋毛
  3. 10歳6ヶ月未満で生理

 

性ホルモン分泌の仕組み

 

(小児内分泌学会のホームページより転載)

 

耳慣れない言葉がたくさん出てきますので、簡単に触れておきたいと思います。

脳の視床下部

↓ 

↓ GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)

↓                     脳(中枢性)

下垂体

↓ 

↓ ゴナドトロピン: LH(黄体ホルモン)・FSH(卵胞刺激ホルモン)

 ↓ 

↓ 

性腺(精巣・卵巣)

↓ 

↓  性ホルモン(テストステロン、エストロゲン)  末梢性

二次性徴

 

性ホルモンを出すのは性腺なのですが、性腺が勝手に性ホルモンを出すのではなく、その量は脳(視床下部・下垂体)がコントロールしているのです。

 

この経路のどこかがおかしくなって、結果として性ホルモンがたくさん出た状態になると、二次性徴→思春期早発症とつながります。

 

思春期早発症の原因

 

思春期早発症は原因によって3つに分類して考えます。

  • 中枢性(脳から出る性ホルモンを出すように指令をだすホルモンが過剰)
  • 末梢性(脳以外の原因で、でている性ホルモンが過剰)
  • 病的でないもの(二次性徴が早くきているが、中枢性・末梢性ともいえない。正常範囲ともいえる)

 

中枢性

中枢性思春期早発症の男の子では頭のMRIで脳腫瘍などの異常が原因として見つかることが多いので注意です。

逆に女の子は8−9割はMRI含めて原因となる異常が見つかりません。(これを特発性と呼びます。)

 

末梢性

性ホルモンが脳以外の場所(たとえば性ホルモンを出す腫瘍)

 

病的でないもの

胸が大きくなる、毛が生える、生理、などの兆候はあるものの、異常な範囲ではないもの

 

思春期早発症の検査の進め方

 

診察で思春期早発症の可能性があるとなれば、つぎのように検査を進めていきます。

 

症状と検査を総合的に見て、診断していきます。

 

血液検査

性ホルモンや、脳から出る、性ホルモンを刺激して出させるホルモン(LH、FSH)などを評価します。できれば朝に採血するのが良いです。

 

性腺刺激ホルモン

2歳以降であればLHはかなり重要な情報となります。

LHとは男性では、精巣に働き、テストステロンとインヒビンの分泌を、女性では、卵巣に働き、エストロゲンとプロゲステロンを分泌させます

  • LH < 0.2 mIU/ml(思春期前)であれば、末梢性思春期早発症か正常範囲を疑います。
  • LH > 0.2~0.3 mIU/mlであれば中枢性思春期早発症を疑います。

 

FSHは参考程度ではありますが、一緒に評価します。

中枢性思春期早発症でFSHが高く、末梢性思春期早発症で低い傾向があります。ただしこれだけで確定的なことは言えません。

 

性ホルモン

性ホルモン(男性、女性)がとても高く、LHが抑制されていれば、末梢性思春期早発症が強く疑われます。

 

この結果を見て、さらに追加の検査を検討していきます。結果によって精査の項目が変わります。

専門的な内分泌負荷試験が必要な場合もあります。

 

骨年齢

成長ホルモン分泌不全性低身長症に対してよく行われる検査ですが、思春期早発症にも使われます。

実際の年齢と、骨の年齢を比較することで、どの程度思春期が進んでいるのか?、あとどれくらい身長が伸びそうか?後述する、治療の反応性、などが評価できます。

 

その他の画像検査

中枢性思春期早発症であれば、頭の中にホルモン異常を起こす原因(腫瘍など)がないかどうか、頭のMRIが必要です。

末梢性思春期早発症であれば、精巣や卵巣の超音波検査が必要です。

 

中枢性思春期早発症の治療の適応

 
どのタイプか、で治療法は変わります。
 
まず、中枢性思春期早発症の場合についてです。
 
MRIで頭の中に腫瘍などが見つかれば、その治療を行います。
 
 
MRIで異常がなければ、リュープリンという思春期のホルモンを押さえ込んで、症状を進まなくする薬を使うかどうか?という選択肢になります。
 

中枢性思春期早発症は治療すべきかどうか?

 
治療すべきかどうかは年齢、性別、身長の伸び具合、予測身長、などで異なります。
 
6ヶ月くらい観察して、
 
  • 二次性徴がすすんでいなければ、進行は遅いと考えられます。
  • 一年に6cm以上伸びていれば、成長率は早いと考えられます。

 

年齢

年齢がかなり低いのに二次性徴が来た場合には、治療のメリットは大きいです。

逆に、正常に近い年齢で二次性徴が来た場合には、治療効果は弱いと言われています。

 
女の子では
 
6歳以下であれば、治療しない場合に比べて最終身長が9~10cm改善
6~8歳では最終身長が4~7cm改善
 
と報告されています。
 
男の子では
 
7歳半以下であれば6.2 ± 8.7 cmとの報告もあり、やはり治療効果はあると考えられます。
 
 
 
 
治療効果を考えるとあまり待たずに治療した方が良いということですね。
 
 
二次性徴の速度
 
ゆっくりと二次性徴が進んでいる場合には、リュープリンの効果は弱いと考えられます。
 
いくつか報告がありますが、
 
18ヶ月間でタナーステージ(二次性徴の進行具合を見る方法)が2度から3度に進む程度であれば、リュープリンを打たなくても正常範囲になると予想されます。
 
 
上記の年齢(女の子で6歳、男の子で9歳)までであれば、迷わず治療をおすすめしますが、
 
この年齢を過ぎている場合や、治療すべきか迷う場合には、しばらくフォローさせていただき、二次性徴のスピードをモニターします。
 
 

治療の目標:低身長とストレス

 

治療するかどうかを考えるためには、治療の目的をはっきりさせておく必要があります。
Dr. SHIDA
Dr. SHIDA
  • 最終身長の改善
  • 精神的ストレスの改善
 
これらが目標です。
 
治療によるこのようなメリットが、治療のデメリット(副作用:後述)を上まわなければなりません。
 
 
結局は、本人やご家族と相談して、治療するかどうかを決めるということになります。
 
 
じゃあ、治療とはどのようなものでしょうか?また、デメリットとは、、、、?
 
 

中枢性思春期早発症の治療薬:リュープリンについて

 

リュープリンを使うことで、完全に下垂体(性腺刺激ホルモンを出している脳の中にある臓器)から性腺(精巣や卵巣)への刺激が抑えられ、性ホルモンが出なくなります。
 
 
このため、強力に二次性徴が抑えられ、進まなくなります。生理も止まります。

 
これは一時的で、薬を中止すると改善します。
 

ただし、陰毛に関しては成熟度が進むかもしれません。リュープリンは陰毛に関連している副腎(性ホルモンを作る臓器)という臓器には作用しないためです。

 
このため陰毛が増えても、薬が効いていない、とは思わなくて良いです。
 
 
実際には、
  • 1ヶ月に1回、クリニックにきて注射する。
  • 3ヶ月〜半年ごとに採血をしてホルモンや副作用を確認する。
  • 骨年齢も調べて、骨の年齢が進んでいないことを確認する。
 
という感じで進めていきます。
 
 

リュープリンの副作用について

 
使いはじめに一時的なリュープリンの刺激により女性ホルモンが放出されるため、一時的に生理が見られたりすることがあります。男の子では同様に勃起が見られることもあります。
 
ただし、これははじめだけです。
 
注射部位が赤くなる、腫れるとかは頻度の高いものになります。注射薬ですし、想像がつきやすいかと思います。そしてみなさんそれほど気にされていないと思います。
 
 
問題は長期的な他の副作用、、、、ですよね。
 
 
小児でたくさん使われているとは言い難い薬です。なかなかクセのある薬ですので、ここはすこし慎重になるところです。
 
いまのところ私が注意していることについて記載します。
 

二次性徴や妊孕性

 
リュープリン治療終了後に、きちんと二次性徴が戻ってくるのか?生理のサイクルや妊娠できるかどうか?
 
とても重要ですね。
 
いくつもの報告があり、健常児と変わりなかったという報告がほとんどです。
 
かなりの確率で大丈夫と言えるでしょう。ただ、100%か、と言われると、そこは保証できません。
 
一応リスクとして認識しておく必要はあるでしょう。
 

肥満

太りやすいとも言われています。ですが、否定する報告も多いです。
 

骨への影響

骨の密度が弱ることが報告されています。骨粗しょう症、というとわかりやすいでしょうか。
 
ある程度骨が弱る覚悟は必要でしょう。
 
ただし、注射を止めるとまた元に戻るとされていますし、思春期早発症の患者さんは骨の発育が進んでおり、骨がしっかりしている傾向があるため、多少弱っても問題にならないことが多いです。
 

リュープリンの治療期間

 

だいたい、男の子で12歳、女の子で11歳くらいまでは続けます。
しかし、一定のものはないと言えます。
 
個人個人で、しっかりと最終身長を確保でき、かつ、二次性徴が周りのお子さんからあまり離れ過ぎないように調整します。
注射をやめると1年〜1年半くらいで二次性徴が戻ってくることが多いです。
 
 

末梢性思春期早発症の治療

 

末梢性の思春期早発症は、中枢性とは全く考え方が変わります。
 
 
脳から、性ホルモンを出しなさい!という指令が多いのではなく、脳の指令なしに勝手に性ホルモンを作っているモノが脳以外のどこかにあります。
 
 
このタイプのものにはリュープリンは効きません。
 
 
性ホルモンを過剰に作っている原因を除去することが治療です。
 
 
その原因を探すことが最重要です。これは通常クリニックではできません。大きな病院でしっかりと検査してもらう必要があります。
 
 
たとえば、、、
 
腫瘍があればそれを治療します。
 
摂取しているサプリメントに含まれているものにホルモンが含まれていて、原因であったりすることもありえます。この場合にはそれを除去すればOKです。
 
機能性卵巣嚢胞といって、様子を見るだけで自然に治るものもあります。
 
またMcCune-Albright症候群のような先天性の病気が隠れていることもあります。
 
 
ここは一律の治療がないところです。繰り返しますが、原因にそれぞれ対応することになります。
 
 

二次性徴は早めだが、異常ではない場合

 

検査の結果、二次性徴が早いものの、中枢性でも末梢性でもない、という場合には経過観察が大切です。
これは、初めは異常がなくても、のちに症状が進んで中枢性・末梢性に変化してくる場合があるからです。
 
引き続き、症状の進行・悪化がないか
 
  • 思春期の症状が急速に進行していないか?
  • 身長の伸びが急速にすすんでいないか?
  • 骨年齢は急速に進んでいないか?
 
などに注意して定期検診をしていきます。
 
この段階では、治療の適応はありません。
 
生理が来たら身長の伸びが止まるかも?と心配になられると思うのですが、現在のエビデンスとしては、この状態でリュープリンで治療してもしなくても最終身長は変わらない(1,2)とされています。(なかなか正常なお子さんにリュープリン注射をしたデータというのは少ないですので、強いエビデンスとは言えませんけれども。)
 

最後に

 

いかがでしたか?
 
生理が早くきた、陰毛が生えてきた、などがあればぜひご相談ください。
 
当院でもある程度のところまでは診断や治療ができますし、さらに必要があれば専門の病院も紹介させていただきます。
 
 
 

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